お疲れ様です、現場監督のハリまるです。
現場の花形といえばタワークレーンですが、ジムの花形といえば間違いなく「ベンチプレス」でしょう。
分厚い胸板は、男としての「厚み」そのものです。
スーツの上からでも分かる大胸筋は、名刺よりも雄弁にあなたを語ります。
しかし、多くのトレーニーがこの花形種目で挫折しています。
「60kgまでは順調だったのに、そこからピクリとも伸びない」
「胸より先に、肩の前側や手首が痛くなってしまう」
「100kgなんて、才能がある奴しか挙がらないんじゃないか?」
断言します。
100kgは才能ではありません。「正しい構造(フォーム)」さえ組めれば、誰でも到達できる通過点です。
あなたが伸び悩んでいるのは、筋力が足りないのではなく、体の組み方という「設計図」が間違っているからです。
構造計算がされていないビルが倒壊するように、理にかなっていないフォームは必ず怪我(事故)を招きます。
この記事でわかること
- ベンチプレスで肩が痛くなるのは「構造欠陥」。インピンジメントを防ぐ肩甲骨の収納術
- アーチ(ブリッジ)はズルじゃない!100kgを挙げるための「耐震構造」の作り方
- まっすぐ上げるな!肩を守り出力を最大化する「Jカーブ軌道」の秘密
- 停滞期を打破する「5×5法」と、三頭筋を強化する補助種目リスト
なぜ9割の初心者がベンチプレスで「肩」を壊すのか?

ベンチプレスは「大胸筋(胸)」の種目ですが、フォームを間違えると一瞬で「三角筋(肩)」の破壊種目に変わります。
現場での事故と同じで、原因は常に「手順の省略」と「構造の欠陥」にあります。
【構造欠陥】「ベタ寝(平らな背中)」は肩のインピンジメント(衝突)を招く
ベンチ台に寝る時、背中をペタリと平らにつけていませんか?
これを「ベタ寝」と言いますが、この状態で重いバーベルを下ろすと、肩関節の中で骨(上腕骨頭)と屋根(肩峰)がぶつかり、その間にある腱(棘上筋)が挟み込まれます。
これを「インピンジメント症候群」と呼びます。
肩は構造上、胸を張らないと可動域が確保できません。
ベタ寝でのプレスは、可動域のない錆びついたクレーンを無理やり動かすようなもの。
ギギギ…と悲鳴を上げ、いずれワイヤー(腱)が断裂します。
肩を守るためには、後述する「アーチ」を作り、胸を高く保つことが絶対安全基準なのです。
バーを下ろす位置が「首寄り」になっている(ギロチンプレスの危険性)
初心者にありがちなのが、バーベルを「肩や首の真上」に下ろしてしまうミスです。
これでは脇が90度に開き、肩へのねじれ負荷が最大化します。
バーベルを下ろすべき位置は、乳首とみぞおちの間、つまり「大胸筋の下部(剣状突起付近)」です。
脇の角度は「60度〜75度」くらい閉じるのが、解剖学的に最も力が入り、かつ安全な角度です。
肩甲骨を寄せないと、大胸筋というメインエンジンが動かない
ベンチプレスの動力源は「大胸筋」です。
しかし、肩が前に出ている状態(巻き肩)では、大胸筋は緩んでしまい、力が入りません。
肩甲骨を寄せて、背中の後ろに隠すことで初めて、大胸筋がピンと張り(ストレッチされ)、エンジンのスイッチが入ります。
「胸で迎えに行く」感覚がないプレスは、ただの腕の屈伸運動であり、労働災害の温床です。
100kgへの近道!強固な「アーチ(ブリッジ)」を構築せよ

高重量を扱うためには、ベンチ台の上に強固な「アーチ構造(ブリッジ)」を作る必要があります。
これは可動域を狭めて楽をするための「ズル」ではありません。
肩関節を保護し、全身の力をバーに伝えるための「最適な力学的構造」です。
Step1:肩甲骨を「寄せて・下げる」。背中のポケットにしまい込め
まずはベンチに座り、肩甲骨を背骨に向かってギュッと寄せます。
そして、そのままお尻の方へ「下げる(下制)」ことが重要です。
イメージは、「両方の肩甲骨を、ズボンの後ろポケットにねじ込む」感覚です。
これで肩がロックされ、大胸筋が高い位置に固定されます。
Step2:みぞおちを天井に突き出し、バーの移動距離(ストローク)を短縮せよ
肩甲骨を固定したら、みぞおちを天井に向かって突き上げます。
背中に空間ができ、きれいなアーチが完成します。
胸が高くなることで、バーベルを下ろす距離(ストローク)が短くなります。
物理学において「仕事量(J)=力(N)× 距離(m)」です。
距離が短くなれば、同じエネルギーでもより重い重量を挙げることができます。
これはサボりではなく、物理法則を利用した「業務効率化」です。
✅ アーチ作りのチェックポイント
- 肩甲骨は寄せきっているか?(背中の肉を挟むイメージ)
- 肩はお尻側に下がっているか?(首を長く保つ)
- お尻はベンチについているか?(浮いたら競技ルール違反&腰痛のリスク)
「握り」と「軌道」の精密検査。手首を破壊しないために

背中のアーチができたら、次は末端(手)の処理です。
バーベルと接触する唯一の接点であり、ここが不安定だと力は伝わりません。
手首を寝かせすぎるな。「ハの字」に握るブルドッググリップ
バーベルを手のひらの真ん中で握り、手首が完全に返ってしまうと、高重量で手首を痛めます。
おすすめは、少し斜めに握る「ブルドッググリップ」です。
- バーに対して手を少し斜め(ハの字)に入れます。
- バーを「手のひらの小指球(下の方)」に乗せます。
- そこから親指を回して握り込みます。
こうすることで、バーの重さが「前腕の骨の真上」に乗り、手首への負担が激減します。
柱の真上に梁(はり)を乗せるのと同じ理屈です。
まっすぐ上げるな!「Jカーブ」を描いて肩へ流せ
多くの人が「バーを垂直に下ろして、垂直に上げる」と思っていますが、これは間違いです。
高重量を扱う際の理想的な軌道は、アルファベットの「J」を描くカーブです。
- 下ろす時:みぞおち(腹側)に向かって斜めに下ろす。
- 上げる時:顔の方(肩の真上)に向かって斜めに押し上げる。
肩関節の真上が一番バランスが取れる位置ですが、そこに下ろすと肩が壊れます。
だから、下ろす時は腹側に逃がし、上げる時は一番楽な肩の上に戻すのです。
この「斜めの軌道」こそが、100kgへの近道です。
腕力に頼るな。「レッグドライブ」で地面の反力を利用する

「ベンチプレスは上半身の運動」だと思っていませんか?
半分正解で、半分間違いです。
100kgを超える猛者たちは、例外なく「脚」を使っています。
【5点支持】頭・背中・尻・右足・左足。一つでも浮けば強度は落ちる
安定した建築物は、基礎がしっかりしています。
ベンチプレスにおける基礎は以下の5点です。
- 頭(後頭部)
- 背中(肩甲骨)
- お尻
- 右足の裏
- 左足の裏
特に重要なのが「足の裏」です。
足をブラブラさせたり、つま先立ちで不安定になっていては、高重量は支えきれません。
かかとまでべったりと床につけ、大地を掴んでください。
足は「踏ん張る」のではなく「頭の方へ蹴る」。スライドする力を上に伝える
ここが一番の技術介入ポイントです。
バーベルを挙げる瞬間、足を単に踏ん張るのではなく、「頭の方に向かって地面を蹴る(スライドさせる)」力を加えます。
体が頭側にズリ上がろうとする力を、肩甲骨の摩擦でブロックし、その行き場を失ったエネルギーを「上方向(バーベル)」に変換するのです。
これを「レッグドライブ」と呼びます。
全身をバネのように使うことで、腕力以上のパワーが出せます。
【工程表】100kg達成のための「期間別ロードマップ」

闇雲に毎回MAX重量に挑戦しても、記録は伸びません。
筋肉を大きくする時期と、神経系(重さに慣れる)を鍛える時期を分ける必要があります。
フェーズ1:筋肥大期(8回〜10回 × 3セット)
まずはエンジンの排気量(筋肉量)を大きくする時期です。
ギリギリ8回〜10回できる重量で、しっかりとフォームを固めながら筋肉をつけます。
初心者はまずここで「60kg × 10回」を目指してください。
これができればMAXは80kg付近です。
フェーズ2:筋力強化期(5回 × 5セット)「5×5法」
ある程度筋肉がついたら、神経系を強化します。
世界的に有名なプログラム「5×5(ファイブバイファイブ)法」を取り入れます。
5回ギリギリできる重量で、5セット行います。
インターバルは長め(3分〜5分)にとってOKです。
これで「重いものを挙げる」ことに脳と体を慣らしていきます。
補助種目:三頭筋と肩を補強せよ
ベンチプレスが伸びない原因が、胸以外にある場合も多いです。
特に、最後に肘が伸び切らない(ロックアウトできない)場合は、上腕三頭筋が弱点です。
- ナローベンチプレス:手幅を狭くして三頭筋を強化。
- ダンベルショルダープレス:肩の筋力を強化し、土台を安定させる。
- 懸垂・ラットプルダウン:拮抗筋である背中を鍛えることで、ブレーキ性能を高める。
現場監督流・安全施工のための「ルーティンと注意点」

最後に、怪我をせずに重量を伸ばすための具体的な施工ルールを定めます。
現場のKY(危険予知)活動です。
手幅は「前腕が垂直」になる位置。81cmラインを目印にせよ
手幅が狭すぎると三頭筋(腕)に効いてしまい、広すぎると肩を痛めます。
バーベルが胸についた時、「前腕が地面に対して垂直」になる幅が最強です。
多くのオリンピックシャフトには「81cmライン」という刻み目があります。
ここに小指か薬指をかけるのが、一般的な適正手幅の目安です。
【KY活動】セーフティーバーは「胸の高さ」に。命綱なしで高所作業するな
ベンチプレスで最も恐ろしい事故は、潰れて首が絞まることです。
ジムで一人でやる場合は、必ずセーフティーバー(安全バー)をセットしてください。
高さの目安は、「アーチを組んだ胸よりは低く、力を抜いて潰れた胸よりは高い」位置です。
これがあれば、万が一挙がらなくても、アーチを解けば隙間から脱出できます。
命綱なしの高所作業は、現場監督として絶対に認めません。
サムレスグリップ(親指外し)は絶対禁止。バー落下=死
「手首が楽だから」といって、親指をバーに巻かない「サムレスグリップ」でやる人がいますが、これは自殺行為です。
手汗で滑ったら、バーベルが顔面や喉に直撃します。
親指は必ず巻き込む「サムアラウンドグリップ」を徹底してください。
手首が痛いなら、リストラップ(手首用サポーター)を巻いて保護しましょう。
道具(リストラップ)を使うのは恥ではありません。安全対策です。
まとめ:厚い胸板は「正しい設計図」から生まれる。100kgの壁を越えろ!

ベンチプレスは、ただ寝転がって棒を押すだけの運動ではありません。
足で蹴り、背中で受け止め、軌道を計算し、全身のバネを使って鉄の塊を押し返す、非常に奥深い「全身運動」です。
今日から、「とりあえず挙げる」のはやめてください。
アーチを組み、肩甲骨を収納し、足場を固める。
正しい設計図に基づいて施工すれば、100kgの壁は必ず越えられます。
分厚い胸板を手に入れて、Tシャツのサイズをワンランク上げましょう。




