お疲れ様です、現場監督のハリまるです。
現場では「腰は要(かなめ)」と言います。
どんなに腕の良い職人でも、腰をやってしまったら現場には立てません。
これは、ジムという現場でも同じことです。
さて、あなたは「デッドリフト」という種目に対して、どんなイメージを持っていますか?
「腰を一発で壊しそうで怖い(腰ブレイカー)」
「ガチ勢がやる種目でしょ? 初心者の俺には関係ない」
「見様見真似でやってみたら、翌日起き上がれなくなった」
その恐怖心、正しいです。
デッドリフトは、フォーム(作業手順)を間違えれば一撃でヘルニアになる「危険作業」です。
しかし、正しい手順で行えば、これほど効率よく背中を分厚くし、逆に「腰痛にならない最強の天然コルセット」を作れる種目は他にありません。
この記事でわかること
- デッドリフトが「腰痛の原因」ではなく「予防策」になる身体操作の秘密
- 一発アウト!脊柱を破壊する「猫背」と「しゃくり上げ」のNG動作リスト
- 初心者は床から引くな!安全に背中を盛れる「ハーフデッドリフト」のすすめ
なぜデッドリフトが必要なのか?「背中の厚み」と「現場力」の向上

「懸垂(チンニング)やラットプルダウンをやっているから、背中は十分じゃないの?」
そう思うかもしれませんが、役割が違います。
現場に例えるなら、懸垂は「足場を広げる(背中の広がり)」作業ですが、デッドリフトは「柱や壁を太くする(背中の厚み)」作業です。
懸垂(広がり)だけでは足りない。「厚み」を作る唯一無二の種目
逆三角形のシルエットを作るには懸垂が一番ですが、横から見た時の「分厚い体」を作るにはデッドリフトが不可欠です。
- 脊柱起立筋:背骨の両側を走る丸太のような筋肉。ここが盛り上がると背中に「溝」ができます。
- 僧帽筋:首から背中にかけての筋肉。ここが発達すると、Tシャツの上からでも分かる「ゴツゴツした迫力」が出ます。
薄っぺらい背中では、現場監督の威厳は出ません。
厚みこそが、男の説得力です。
全身の筋肉の9割を使う? テストステロンが出る代謝アップ効果
デッドリフトは「Dead(静止した物体)をLift(持ち上げる)」という名前の通り、全身の筋肉を総動員します。
背中だけでなく、太もも裏(ハムストリングス)、お尻(大殿筋)、握力、体幹。
ほぼ全ての筋肉を使うため、消費カロリーが凄まじく、成長ホルモンや男性ホルモン(テストステロン)の分泌もドバドバ出ます。
痩せやすく、男らしい体を作るための「起爆剤」になる種目です。
現場仕事が楽になる。重い荷物を「股関節」で持つ技術
これが最大のメリットかもしれません。
デッドリフトを習得すると、日常生活や仕事で重いものを持つ時、無意識に「正しい持ち方」ができるようになります。
腰を痛める人は「腰を支点」にして持ち上げます。
デッドリフトができる人は「股関節を支点」にして持ち上げます。
これを覚えると、現場でセメント袋を持とうが、家で子供を抱っこしようが、腰を痛めることがなくなります。
【KY活動】腰が一発で終わる「危険なNGフォーム」ワースト3

デッドリフトはハイリスク・ハイリターンです。
実践する前に、絶対にやってはいけない「事故直結フォーム」をKY(危険予知)活動として確認しましょう。
⚠️ 危険予知(KY)チェックリスト
以下の動作は「労働災害(怪我)」に直結します。絶対に避けてください。
①「猫背(腰が丸まる)」:椎間板にかかる圧力は数倍
最も危険なのがこれです。
スタートポジションや挙上中に背中(特に腰)が丸まると、椎間板の一点に強烈な圧力がかかり、中身が飛び出します(ヘルニア)。
クレーンのブームが折れ曲がった状態で荷物を吊り上げるようなものです。
背中は常に「真っ直ぐ(ニュートラル)」をキープしなければなりません。
②「しゃくり上げ」:腕で引こうとするな
バーベルを腕の力で持ち上げようとして、肘が曲がっている状態です。
これでは背中に効かないどころか、高重量になった瞬間に「上腕二頭筋断裂」の大怪我をします。
腕はクレーンの「ワイヤー(鎖)」だと思ってください。
動力源はお尻と脚です。腕はダラリと伸ばして引っ掛けておくだけです。
③「反りすぎ(フィニッシュ)」:腰を痛める無駄なアピール
持ち上げた最後に、必要以上に上体を後ろに反らす人がいます。
「やりきった感」は出ますが、腰椎に過度な負担がかかるだけで、筋肉へのメリットはありません。
フィニッシュは「直立」で止める。
現場でも「過積載」や「過剰動作」は事故のもとです。
【種類別】あなたに合うのはどれ?デッドリフト比較表

一口にデッドリフトと言っても、いくつか種類があります。
自分の目的に合わせて選びましょう。
| 種類 | 特徴 | 鍛えられる部位 | 推奨レベル |
|---|---|---|---|
| コンベンショナル (ナロー) |
最も一般的。足幅を腰幅にする。腰への負担は中程度。 | 背中全体 ハムストリングス |
中級者〜 |
| スモウ (ワイド) |
足を大きく広げる。上体が起きるため腰への負担が少ない。 | 内転筋(内もも) お尻 |
上級者 (腰痛持ち向け) |
| ルーマニアン | 膝をあまり曲げず、お尻を高く保つ。床まで下ろさない。 | ハムストリングス お尻上部 |
中級者 (美尻・美脚) |
| ハーフ (トップサイド) |
膝の高さから引く。可動域が狭く、腰が丸まりにくい。 | 背中上部 僧帽筋 |
初心者 (超おすすめ) |
【実践編】現場監督流・安全第一なデッドリフトの「作業手順」

それでは、最も基本となる「コンベンショナル(ナロー)」の正しい作業手順(フォーム)を解説します。
一つ一つの工程を確認しながら行ってください。
手順1:足場確認(スタンスとバーの位置)
- 足幅は「腰幅(ジャンプして着地した時の幅)」です。広すぎないように。
- バーベルの下につま先を入れます。
- バーが「靴紐の結び目の真上」に来る位置に立ちます(スネから2〜3cmの距離)。ここが離れると腰が死にます。
手順2:玉掛け(グリップとヒップヒンジ)
- お尻を後ろに突き出しながら、股関節を折り曲げます(ヒップヒンジ)。
- 膝を軽く曲げ、両手でバーを握ります(肩幅より少し広く)。
- この時、背中が丸まらないように胸を張ります。
- 「脇を締める」意識を持ちます(脇の下に新聞紙を挟んで潰すイメージ)。これで広背筋が固まり、背骨が安定します。
手順3:吊り上げ(ファーストプル)
- 息を大きく吸って腹圧をかけます(お腹を膨らませてベルトを押し返す)。
- 上半身を起こすのではなく、「足で地面をプレス(押す)」感覚でスタートします。レッグプレスと同じです。
- バーベルは、常に「スネ」と「太もも」を擦りながら上がっていきます(体から離さない)。
- バーが膝を通過したら、お尻を前に突き出して(キュッと締めて)直立します。
【失敗談】バーが体から離れて「電撃」が走った日
デッドリフトを始めて1ヶ月の頃、調子に乗って重量を上げました。
スタートで勢いよく引こうとした瞬間、バーベルがスネから数センチ離れて浮き上がりました。
その瞬間、腰に「ビリッ!」という電撃のような痛みが。
物理の授業で習った「モーメントアーム(支点からの距離)」の話です。
重りが体(支点)から離れれば離れるほど、腰にかかる負荷は数倍に膨れ上がります。
「バーベルは皮膚の一部だと思え」。
痛い思いをして学んだ、血染めの教訓です(本当にスネから血が出ることがあるので、長い靴下を履きましょう)。
初心者は「床引き」をするな!「ハーフデッドリフト」こそ最適解

ここまで説明してきましたが、実は初心者には「床から引くデッドリフト」はお勧めしません。
なぜなら、床にあるバーを掴むには、ハムストリングス(裏もも)の高い柔軟性が必要だからです。
体が硬い人が無理に床から引こうとすると、スタートポジションで必ず腰が丸まります。
パワーラックのセーフティーを使う「ハーフ(トップサイド)」のメリット
そこでお勧めなのが、パワーラックのセーフティーバーを「膝の高さ(または膝下)」くらいに設定して行う「ハーフデッドリフト(トップサイドデッドリフト)」です。
✅ ハーフデッドリフトのメリット
- 腰が丸まらない:スタート位置が高いので、体が硬くても背筋を伸ばしたまま始められる。
- 背中に集中できる:下半身の関与が減り、純粋に「背中で受け止める」感覚を掴みやすい。
- 高重量が扱える:可動域が狭い分、重い重量で背中を刺激できる。
- 安全性が高い:万が一潰れても、セーフティーバーがあるので挟まれない。
ボディメイク目的(背中をデカくしたい)なら、ハーフデッドリフトで十分、いや、ハーフの方が効率的です。
無理して床から引くのは、パワーリフターになってからで遅くありません。
家トレ派も安心。「ダンベルデッドリフト」のやり方と注意点

「ジムに行く時間がない」「バーベルが怖い」
そんな人は、自宅でダンベルを使って行いましょう。
実はダンベルの方が、腰への負担が少ない場合があります。
バーベルがなくてもOK。ダンベルなら軌道の自由度が高い
バーベルは一本の棒なので、足の前しか通りませんが、ダンベルは左右独立しています。
そのため、「体の横(太ももの外側)」で持つことができます。
重心が体の中心に近づくため、腰へのテコの原理が弱まり、安全に行えます。
スーツケースを持つように、体の横でダンベルを持ち、お尻を後ろに突き出して下ろしていく。
これだけで、十分な背中トレになります。
【体験談】自宅でダンベルデッドをして気づいた「背中の張り」
雨でジムに行けなかった日、家にある可変式ダンベル(片手20kg)でデッドリフトを行いました。
「バーベルに比べれば軽いし、効かないかな?」と思っていましたが、丁寧にストレッチ(下ろす動作)を意識して15回×3セット。
翌朝、起き上がろうとしたら背中全体に心地よい筋肉痛が。
「重量だけが全てじゃない。丁寧な施工(動作)こそが効かせるコツだ」
自宅トレでも背中は作れると確信した日でした。
まとめ:腰を守るための「腹圧」を忘れるな。ベルトを巻いて挑め!

デッドリフトは、正しく行えば「最高の背中トレ」であり「最強の腰痛予防」です。
しかし、一歩間違えれば凶器になります。
最後に一つ、現場監督からの命令です。
デッドリフトをやる時は、必ず「トレーニングベルト」を巻いてください。
そして、お腹をパンパンに膨らませて(腹圧)、内側から腰を支えてください。
これは現場の安全帯と同じ、あなたの体を守る命綱です。




