真冬のジム。暖房が効ききっていないフリーウェイトエリア。
バーベルを担ぎ、スクワットでしゃがみ込んだその瞬間。
「パキッ」
膝の奥から、乾いた音が鳴るのを感じたことはありませんか?
あるいは、セットを重ねるごとに膝のお皿の周りに鈍い痛みや、ギシギシとした違和感を感じることはないでしょうか。
もし心当たりがあるなら、それは膝からの危険信号(SOS)です。
膝の半月板や軟骨は「消耗品」です。
筋肉と違って、すり減ってしまった軟骨は、どれだけプロテインを飲んでも二度と元には戻りません。
「まだ自分は初心者だし、サポーターなんて大袈裟だ」
「怪我をしてから買えばいいや」
そう思っているなら、今すぐ考えを改めてください。
サポーター(ニースリーブ)は、怪我をしてから着ける「包帯」ではなく、怪我をしないために着ける「鎧」です。
特にスクワットで自分の体重以上の重量を扱うようになったら、ニースリーブはベルトと同じくらい必須の装備です。
この記事では、トップリフターも愛用する厚さ7mmの「ニースリーブ」がもたらす劇的な保護効果と、履くだけでスクワットが軽くなる「反発力」の秘密を解説します。
そして、最も難しい「サイズ選び」で失敗しないためのプロの計測術まで、徹底的に講義します。
この記事の重要ポイント(完全版)
- ドラッグストアの薄いサポーターは無意味。必要なのは「7mmのネオプレン」だ。
- 最大の効果は「保温」。膝のオイル(滑液)を温めて動きを滑らかにする。
- 履くだけで「+5kg」は可能。ボトムでの反発力を使え。
- サイズ選びの罠。膝の皿ではなく「ふくらはぎ」が入るかで決まる。
- 迷ったら「SBD」を買え。1万円の投資で将来の手術費を防げる。
なぜ「ドラッグストアのサポーター」ではダメなのか?ニースリーブの役割

まず、言葉の定義をはっきりさせておきましょう。
ドラッグストアで売っている、薄手で通気性の良い「膝サポーター」と、我々トレーニーが使う「ニースリーブ」は、全く別の道具です。
目的の違い。医療用は「生活補助」、筋トレ用は「関節固定&出力強化」
医療用のサポーターは、日常生活での階段の上り下りなどをサポートするために作られています。
長時間つけても蒸れないようにメッシュ素材だったり、圧力が弱めだったりします。
しかし、スクワットでかかる100kg超の負荷に対しては、これらは全くの無力です。
一方、筋トレ用のニースリーブは、ウェットスーツと同じ素材である「ネオプレン(クロロプレンゴム)」で作られています。
分厚く、伸縮性があり、強烈な弾力を持っています。
その目的は、快適さではなく「関節の強力な固定」と「出力の強化」です。
通気性など二の次。膝を守り、高重量を挙げるためだけに設計された専用ギアなのです。
核心は「保温(Warmth)」にあり。膝のオイル(滑液)を温めて潤滑にするメカニズム
ニースリーブの最大のメリットは、実は「反発力」以上に、「保温性」にあります。
膝関節の中には、「関節滑液(かつえき)」という液体が入っており、これが骨と骨の間の摩擦を減らす潤滑油(オイル)の役割を果たしています。
この滑液には、「温度が低いと粘度が高く(ドロドロに)なり、温度が高いとサラサラになる」という性質があります。
冬場や、アップ不足の状態で膝がギシギシするのは、オイルが冷えて固まっているからです。
分厚いネオプレン製のスリーブを履くと、膝周りの熱が逃げず、サウナ状態になります。
これにより、短時間で膝関節が芯まで温まり、滑液がサラサラになります。
結果として、驚くほど膝が滑らかに動き、摩擦による軟骨の摩耗を防いでくれるのです。
「ニースリーブは膝のウォーマーである」。この認識を持ってください。
物理的な「着圧(Compression)」。膝が爆発しないように外側から抑え込む安心感
もう一つの役割が「着圧(コンプレッション)」です。
高重量のスクワット中、膝関節には内側から外側へ向かって「爆発」しようとするような強烈な圧力がかかります。
ニースリーブは、この圧力に対し、外側からギュッと締め付けることで対抗します。
物理的に関節のズレを防ぐだけでなく、「膝が守られている」という感覚(固有受容感覚)が高まり、脳が安心して筋肉に「全力で力を出せ」と指令を送れるようになります。
履くだけで重量が伸びる?「反発力」という魔法

怪我予防の話をしましたが、トレーニーとして気になるのは「これを履けばもっと重いのが挙がるのか?」という点でしょう。
答えはイエスです。
スクワットのボトム(最下点)で効く「バネ」の原理
厚手のニースリーブ(特に後述する7mm厚)は、非常に硬いゴムでできています。
スクワットで深くしゃがみ込んでいくと、膝が曲がるにつれてスリーブが引き伸ばされ、ゴムが元に戻ろうとする「縮む力」が発生します。
そして最下点(ボトム)に達した瞬間、圧縮されたスリーブが一気に元に戻ろうとする「反発力(Rebound)」が生まれます。
この反発力が、立ち上がる初動をサポートしてくれます。
まるで膝にバネを仕込んだような感覚です。
これにより、一番キツイ「切り返し」の局面が楽になり、スティッキングポイント(動作が止まりそうになる点)を突破しやすくなります。
5kg〜10kg伸びる? 自分の筋力以上の力が出る「ギア効果」とは
この効果は絶大で、人によってはニースリーブを履くだけで、MAX重量が5kg〜10kg伸びることも珍しくありません。
これはズルでしょうか? いいえ、パワーリフティングのルール(ノーギア部門)でも、ニースリーブの着用は認められています。
合法的に使える「装備(ギア)」の効果を使わない手はありません。
注意!「ニースリーブ(筒)」と「ニーラップ(包帯)」は別物
ここで一つ注意点です。
上級者が膝にグルグルと包帯のようなものをミイラのように巻き付けているのを見たことがあるかもしれません。
あれは「ニーラップ(Knee Wraps)」と呼ばれる別のアイテムです。
ニーラップは、反発力がニースリーブとは桁違いに強く(数十キロ変わることも)、巻き付けるのに激痛を伴います。
これは「フルギア」と呼ばれる特殊な競技カテゴリーで使われるもので、一般的なトレーニングや初心者のスクワットには過剰ですし、扱いが非常に難しいです。
まずは「履くタイプ」のニースリーブを選んでください。
究極の二択。「7mm」と「5mm」どっちを買うべきか?

ニースリーブを買おうとすると、必ず「厚さ」の選択肢が出てきます。
一般的に「3mm」「5mm」「7mm」がありますが、トレーニーが選ぶべきは「5mm」か「7mm」です。
【7mm】スクワット特化。ガチガチに固めたいならこれ一択
もしあなたの目的が「スクワットの重量を伸ばしたい」「膝をしっかり守りたい」なら、迷わず「7mm」を選んでください。
パワーリフティングの競技ルールで認められている最大の厚さが7mmであり、現在のスタンダードです。
生地が分厚いため、曲げるのに力が要りますが、その分、強力な反発力と固定力が得られます。
BIG3メインのトレーニーなら、7mm以外を買う理由はほぼありません。
【5mm】クロスフィット・動ける派。ジャンプやランジもするならこちら
一方、スクワットだけでなく、ボックスジャンプ、ランジ、バーピーなど、激しく動くトレーニング(クロスフィットなど)も行う場合は、「5mm」がおすすめです。
7mmだと膝が曲がりにくすぎて、俊敏な動きを阻害してしまうからです。
5mmは適度なサポートと動きやすさのバランスが取れています。
初心者への結論:迷ったら「7mm」を買え。大は小を兼ねる
「初心者がいきなり7mmなんて生意気かな…」と思う必要はありません。
むしろ、フォームが安定していない初心者こそ、7mmの強力な保護が必要です。
「大は小を兼ねる」の精神で、最初から最強の防具を手に入れましょう。
失敗しないサイズ選び。「膝の皿」ではなく「ふくらはぎ」を見ろ

ニースリーブ選びで最も失敗が多いのが「サイズ」です。
メーカーのサイズ表通りに買ったのに、「キツすぎて入らない!」「ゆるすぎて落ちてくる!」という悲鳴が後を絶ちません。
最大の悲劇。「買ったけど足が入らない」を防ぐ計測ポイント
多くのメーカーのサイズ表には「膝のお皿周りを測ってください」と書いてあります。
しかし、これを鵜呑みにしてはいけません。
ニースリーブを履く際、最大の難関(ボトルネック)となるのは、膝ではなく「ふくらはぎ(カーフ)の一番太い部分」です。
特にトレーニングをしている男性は、膝関節よりもふくらはぎの筋肉の方が太い場合が多々あります。
サイズを選ぶ際は、「膝周り」と「ふくらはぎ周り」の両方を測り、太い方の数値を基準に選ぶのが鉄則です。
ふくらはぎが入らなければ、膝まで到達することすらできません。
サイズ感の流派。「スタンダードフィット(推奨)」vs「タイトフィット(競技用)」
サイズ選びには2つの流派があります。
- スタンダードフィット:メーカー推奨サイズ。着脱が比較的楽で、長時間の着用も可能。普段の練習用ならこちら。
- タイトフィット:推奨より1サイズ落とす選び方。着脱は地獄のように大変だが、反発力は最強。試合用。
初心者は絶対に「スタンダードフィット」を選んでください。
タイトフィットは、履くだけで10分かかり、汗だくになり、トレーニングのやる気を削ぎます。
まずは「練習で毎回ストレスなく履けるサイズ」が正解です。
ビニール袋を使って履く? 新品のニースリーブを履くための裏技
新品の7mmスリーブ(特にSBDなど)は驚くほど硬く、サイズが合っていても履くのに苦労します。
汗をかいていると摩擦で全く上がりません。
そんな時の裏技が「ビニール袋法」です。
- コンビニ袋などのツルツルしたビニール袋を足に履く(靴下の上から)。
- その上からニースリーブを通す(ビニールが滑ってスルスル上がる)。
- 定位置まで上げたら、スリーブの下からビニール袋を引き抜く。
これで驚くほど簡単に履けます。
ジムバッグに常にビニール袋を一枚入れておくのが、ニースリーブ使いの知恵です。
【Episode】膝の違和感を放置していた35歳・Mさんの後悔
スクワット90kgあたりから、右膝に「パキッ」という軽い違和感を感じていたMさん。
「痛みはないからヨシ!」と放置して重量を増やし続けました。
ある日、100kgに挑戦した際、ボトムで「ズキッ!」という激痛が走り、バーベルを落としてしまいました。
診断は半月板の損傷。
半年間スクワット禁止を言い渡されました。
「あの時、1万円をケチらずにニースリーブを買っていれば…」
復帰後、Mさんは真っ先にSBDのニースリーブを購入し、今は安全にトレーニングを再開しています。
迷ったらこれを買え!ニースリーブ界の絶対王者とコスパ枠

ニースリーブ市場には様々な商品がありますが、正直なところ「安物買いの銭失い」になりやすいジャンルです。
信頼できるブランドを紹介します。
【神:絶対王者】SBD ニースリーブ(7mm)
(価格帯:10,000円〜12,000円)
迷ったら、いや、迷わずこれを買ってください。
イギリスのSBD社が作るニースリーブは、世界中のパワーリフターが愛用する「世界標準」のギアです。
その特徴は、圧倒的な「反発力」と「耐久性」。
他のメーカーの7mmとは別次元の硬さとサポート力があります。
数年使ってもヘタらない耐久性があり、リセールバリュー(メルカリ等で売る時の価格)も高いです。
初期投資は高いですが、結果的に一番安上がりです。
【優:日本代表】鬼(ONI) スリーブ
(価格帯:8,000円前後)
日本の武器屋(ONI)が開発したブランド。
日本人の骨格に合わせて設計されており、SBDよりも少し丈が短めで履きやすいのが特徴です。
反発力もSBDに匹敵するレベルで強く、パワーリフティングの公認品でもあります。
「SBDはみんな履いてて被るのが嫌だ」という人におすすめです。
【良:老舗】Rehband(リーバンド)
(価格帯:片足4,000円〜 / ※1ペアではなく1個売りの場合が多いので注意)
青いカラーでおなじみの老舗メーカー。
ウェイトリフティング(重量挙げ)の選手によく使われています。
SBDほどのガチガチな硬さはなく、関節の動きに合わせてフィットする柔軟性が売りです。
「反発力よりも、自然な動きと保護を重視したい」という玄人好みの一品です。
【安:入門】Amazonの格安ネオプレン製
(価格帯:2,000円〜3,000円)
「どうしても1万円は出せない」という場合、Amazonで売られている安価な7mmスリーブ(ノーブランド品)でも、素膝よりは100倍マシです。
保温効果は十分に得られます。
ただし、SBDのような強力な反発力は期待できず、半年ほど使うとネオプレンが伸びてペラペラになることが多いです。
お試し用と割り切りましょう。
臭い対策と寿命。ネオプレン素材は「激臭」になりやすい

最後に、ニースリーブと付き合う上で避けて通れない問題。
それは「臭い」です。
ネオプレン素材は汗を強烈に吸い込み、放置すると雑巾のような激臭を放ちます。
ジムバッグに入れっぱなしは自殺行為。必ず裏返して乾かせ
使い終わった後、汗だくのスリーブをバッグの中に放置するのは、雑菌の培養実験をしているようなものです。
帰宅したらすぐにバッグから出し、「裏返して」風通しの良い場所で陰干ししてください。
これをするだけで、臭いの発生を大幅に抑えられます。
洗濯機は使える? 手洗い推奨だが、ネットに入れればいける説
メーカー公式では「手洗い推奨」ですが、毎回手洗いは面倒です。
多くのトレーニーは、「洗濯ネットに入れて、おしゃれ着洗いモード(ドライコース)」で洗濯機で洗っています。
洗剤は中性洗剤を使い、柔軟剤は使わないでください(ゴムが劣化します)。
そして絶対に乾燥機にはかけないこと。ゴムが縮んで履けなくなります。
寿命のサイン。生地が薄くなり、反発を感じなくなったら買い替え時
どれだけ高級なスリーブでも、ゴム製品なので寿命があります。
新品の時の「履くのが大変なほどの硬さ」がなくなり、靴下のようにスルスル履けるようになったり、ボトムでの反発を感じなくなったら、それはただの「保温サポーター」に成り下がっています。
1年〜2年(使用頻度による)を目安に、サポート力が落ちたと感じたら買い替えましょう。
まとめ:膝の寿命はプライスレス。SBD代は「将来の治療費」より安い

お疲れ様でした。
たかが膝のサポーターに、なぜこれほど熱くなるのか。
それは、膝を壊してジムを去っていく仲間を何人も見てきたからです。
膝の軟骨には血管が通っていません。
つまり、一度傷つくと、自然治癒することはほとんどないのです。
だからこそ、壊れる前に「保温」と「着圧」で守り抜くしかありません。
SBDのニースリーブは1万円以上します。
「高い」と思うかもしれません。
しかし、膝を壊して整形外科に通う治療費、ヒアルロン酸注射の痛み、そして大好きなスクワットができなくなる精神的苦痛に比べれば、タダ同然の安さです。
今すぐ、あなたの膝に最強の鎧を着せてあげてください。
そして、冬の寒いジムでも、パキパキ音を鳴らすことなく、滑らかに、力強くしゃがみ続けてください。




