お疲れ様です、現場監督のハリまるです。
現場では、厚い胸板は「天然の鎧(安全帯)」としてリスペクトされます。
胸板が厚いと、ハーネスが食い込んでも痛くないですし、何より作業着が似合います。
現場監督として、職人さんにナメられないための「威圧感」としても重要です。
さて、ジムに通う男性なら、誰もが一度は目指す頂があります。
そう、「ベンチプレス100kg」です。
「男なら100kgは挙げたい」
「でも、60kgや80kgの壁がどうしても越えられない」
「最近、挙げると肩にピキッとした痛みが走る…」
そんな悩み、抱えていませんか?
断言しますが、100kgを挙げるのに才能は要りません。
必要なのは、怪我をしないための「強固な土台(フォーム)」と、重量を伸ばすための「計画的な工程表(プログラム)」だけです。
多くの人が100kgに届かないのは、力が足りないからではありません。
「力の伝え方(構造力学)」が間違っているからです。
この記事でわかること
- 重量が伸びない原因は「手首」と「脇」にある?骨で支える構造力学
- 停滞期(プラトー)を打破する魔法のルーティン「5回×5セット法」と補助種目
- 命を守るKY活動!セーフティーバーの高さ調整と「自殺握り」の禁止
なぜ重量が伸びないのか?「腕」で挙げようとする施工ミス

ベンチプレスを「胸と腕のトレーニング」だと思っていませんか?
それは半分正解で、半分間違いです。
高重量を扱うベンチプレスは、足から背中、そして腕へと力を伝える「全身運動」です。
ベンチプレスは「全身運動」。足の力を背中に伝えるメカニズム
60kg程度なら腕力だけで挙がるかもしれませんが、80kgを超えると「腕力」の限界が来ます。
ここで必要なのが、「レッグドライブ(足の蹴り)」です。
現場で重いドラム缶を押す時、手だけで押しますか?
違いますよね。足を地面に踏ん張って、体全体で押すはずです。
ベンチプレスも同じ。
寝ているから分かりにくいですが、感覚としては「足で地面を蹴って、背中(ベンチ台)に体を押し付ける力」を、アーチ(ブリッジ)を通してバーベルを挙げる力に変換するのです。
これができていないと、100kgの壁は破れません。
「骨」で支えろ!手首が寝ているとパワーが逃げる
もう一つの施工ミスが「手首」です。
バーベルを持った時、手首が甲側にグニャリと曲がっていませんか(寝ている状態)?
これでは、力がバーに伝わらないばかりか、手首を痛めます。
建物で言えば、柱が曲がっている状態です。
バーベルは「前腕の骨の真上」に乗せる必要があります。
手首を立て気味にし、手のひらの下の方(手根)で受けるのが正解です。
これだけで、挙上重量が5kg変わります。
肩が痛い原因は「脇の開きすぎ」。45度〜60度が安全角度
「ベンチプレスで肩を壊した」という人の9割は、脇を90度近く開いてバーを下ろしています。
これでは、上腕骨と肩甲骨が衝突し、腱板を挟み込む「インピンジメント症候群」を引き起こします。
安全な角度は、体に対して「45度〜60度」です。
脇を軽く締めることで、大胸筋がストレッチされ、かつ肩関節を守ることができます。
「脇を開けば胸に効く」というのは、軽い重量でのボディビル的な効かせ方であり、重量を追う段階では危険です。
【KY活動】「サムレスグリップ(自殺握り)」は絶対禁止

ここで一旦、安全確認(KY)です。
親指をバーに回さない「サムレスグリップ」。
手首が立って押しやすいという意見もありますが、現場監督としては「使用禁止」を命じます。
危険予知:落下災害の防止
サムレスグリップは、英語で「Suicide Grip(自殺握り)」と呼ばれます。
汗や疲労でバーが滑った瞬間、親指の引っ掛かりがないため、バーベルが喉や顔面に直撃します。
100kgの鉄塊が首に落ちたら、即死または重篤な障害が残ります。
必ず親指を回して握り込む「サムアラウンドグリップ」を徹底してください。
【実践編】100kgを支える強固な土台「ブリッジ」の作り方

高重量を挙げるには、グラグラしない土台が必要です。
それが「ブリッジ(アーチ)」です。
これはズルをするためではなく、肩を守り、力を逃がさないための必須テクニックです。
手順①:肩甲骨を寄せて下げる(背中でペンを挟むイメージ)
ベンチに寝る前に、まず肩甲骨を寄せます。
「胸を張る」というよりは、「背骨の中央に肩甲骨を寄せて、さらにお尻の方へ下げる(下制)」意識です。
背中の真ん中にペンを挟んで落とさないようなイメージ。
これにより、肩が前に出るのを防ぎ、大胸筋が高い位置に保たれます。
手順②:お尻をベンチにつけたまま、胸を天井に突き出す(アーチ)
肩甲骨を固定したら、バーを握り、お尻をベンチにつけたまま、胸(みぞおち)を天井に向かって突き上げます。
背中に空間ができますが、これこそが「ブリッジ」です。
ブリッジを作ることで、可動域が少し狭くなり、デクライン(下向き)に近い角度になるため、最も力の強い「大胸筋下部」を動員できるようになります。
手順③:足で地面を強く踏ん張る(レッグドライブ)
最後に足の位置です。
膝の下、あるいはお尻の方に少し引いた位置に足を置き、地面を強く踏みしめます。
挙上する瞬間、「カカトで地面を蹴る(頭の方へ体をスライドさせる力)」ことで、その反動がブリッジを介してバーベルに伝わります。
これが「全身で挙げる」感覚です。
【失敗談】「ベタ寝」でプレスして肩に激痛が走った日
初心者の頃、私は「背中を反るのは腰に悪い」と勘違いし、背中をベンチにべったりつけた「ベタ寝」でベンチプレスをしていました。
70kgに挑戦した時、ボトム(一番下)から押し上げようとした瞬間、左肩の奥で「パキッ」という嫌な音が。
激痛でバーベルを落としそうになりました。
原因は、肩甲骨が固定されておらず、肩が前に出て(すくんで)負荷をすべて肩関節で受け止めてしまったことでした。
「土台(肩甲骨)の固定なしに、重量物は扱えない」。
それ以来、ブリッジ作りには命をかけています。背中のアーチは、肩を守るためのサスペンションなのです。
バーベルの軌道は「直線」ではない。「Jカーブ」を描け

もう一つ、重要な技術があります。
バーベルを上げ下げする軌道です。
多くの初心者は、バーベルを「垂直」に下ろして「垂直」に上げようとします。
しかし、これは力学的に不利です。
肩を守り、出力を最大化する「斜めの軌道」
正しい軌道は、横から見た時に「Jの字(または斜め)」になります。
- 下ろす時:肩の真上(スタート位置)から、みぞおち付近(乳首より少し下)に向かって斜めに下ろす。
- 上げる時:みぞおちから、顔の方(肩の真上)へ向かって斜めに押し上げる。
なぜか?
肩関節を中心とした円運動の一部だからです。
垂直に下ろすと脇が開きすぎて肩を痛めますし、垂直に上げようとすると力が入りにくい位置になります。
「顔の方へ押し戻す」イメージを持つと、スムーズに挙がります。
停滞期(プラトー)を打破する工程表。「5回×5セット法」の魔力

「80kgまではいったけど、そこから半年間伸びていない…」
そんな停滞期を打破するための、現場監督推奨の工程表を紹介します。
それが「5×5法(ファイブバイファイブ)」です。
10回3セットは卒業せよ。「高重量・低回数」で神経系を強化する
多くの人は「10回×3セット」で組んでいると思います。
これは筋肥大(筋肉を大きくする)には有効ですが、筋力(MAX重量)を伸ばすには少し負荷が軽すぎます。
MAX重量を伸ばすには、筋肉だけでなく「神経系(火事場の馬鹿力を出す回路)」を鍛える必要があります。
そこで、「5回ギリギリ挙がる重量で、5セット行う」メニューに切り替えます。
| 項目 | 従来のメニュー (10回×3セット) |
5×5法 |
|---|---|---|
| 目的 | 筋肥大・パンプアップ | 筋力アップ・神経系強化 |
| 重量設定 | MAXの70〜75% | MAXの80〜85% |
| インターバル | 1分〜2分 | 3分〜5分 |
重量設定のルール。成功したら次回2.5kgプラス、失敗したらステイ
ルールはシンプルです。
- 5回×5セット、すべて成功したら、次回のトレーニングで重量を2.5kg増やす。
- 1セットでも5回挙げられなかったら、次回も同じ重量で挑戦する。
- 2回連続で失敗したら、重量を一旦軽くしてリセットする。
このサイクルを繰り返すだけで、面白いように重量が伸びていきます。
ゲーム感覚でクリアしていきましょう。
伸び悩んだら「三頭筋」を鍛えろ!補助種目の重要性

ベンチプレスで、胸まではバーベルを下ろせるけど、半分くらい上げたところで止まってしまう。
この「スティッキングポイント」で潰れる原因の多くは、胸ではなく「上腕三頭筋(二の腕)」の弱さにあります。
ベンチプレスの後半(肘を伸ばし切る局面)は、三頭筋が主役です。
100kgを目指すなら、以下の補助種目を取り入れてください。
- ナローベンチプレス:手幅を肩幅より狭くして行うベンチプレス。三頭筋を集中的に強化できます。
- ディップス:自重で行う最強のプレス種目。胸下部と三頭筋を同時に鍛えられます。
メインのベンチプレスが終わった後に、これらの種目を2〜3セット行うだけで、最後の押し込みが強くなります。
命を守る安全装置。「セーフティーバー」の高さ調整

一人でベンチプレスをする時、最も重要なのが「セーフティーバー(安全バー)」です。
これがない状態でMAX挑戦をするのは、命綱なしで高所作業をするのと同じです。
潰れた時に「首」ではなく「セーフティー」が受けてくれる高さ
セーフティーバーの高さは、以下のように調整します。
- ブリッジを組んだ時の「胸のトップ」よりは低く。
- ブリッジを崩してベタ寝になった時の「胸(または首)」よりは高く。
こうすることで、バーベルを胸まで下ろしてもバーには当たりませんが、力尽きてブリッジを崩せば、セーフティーバーがバーベルを受け止めてくれます。
この「隙間」を見つけるのがプロの調整です。
【体験談】誰もいない深夜のジムで潰れた恐怖
深夜2時、誰もいない24時間ジムでベンチプレスをしていました。
95kgに挑戦中、5回目で限界が来て、バーベルが胸の上に落ちてきました。
「ぐっ…重い…」
セーフティーバーをセットしていなかったので、バーベルは私の胸を圧迫し続けました。
声を出そうとしても息ができず、視界が白くなっていく恐怖。
火事場の馬鹿力で、バーベルを腹の方へ転がして脱出しましたが(ロール・オブ・シェイム)、あばら骨に酷い痣が残りました。
「もし首に落ちていたら…」
それ以来、アップの段階から必ずセーフティーバーを確認するようになりました。
生きて帰るまでがトレーニングです。
まとめ:100kgは通過点。焦らず「基礎」を固めて積み上げろ

ベンチプレス100kgは、適切なフォームとプログラムがあれば、誰でも到達できる領域です。
才能ではありません。「継続」と「安全管理」の結晶です。
焦って重量を追うと、必ず怪我をして後退します。
現場と同じで、急がば回れ。
まずは軽い重量で「ブリッジ」と「フォーム」を固めてください。
そして、三頭筋を鍛え、5×5法で着実に積み上げる。
いつか100kgが挙がった日。
その分厚い胸板は、あなたの努力の証明書となり、スーツや作業着を最高にかっこよく見せてくれるはずです。




